科学技術論文の書き方 表 紙 目 次 |
文字・フォントの問題
文字・フォント体系文字の形としての差に関する名称表現は混沌としているので,ここで整理しておく. DTPの基礎論なんて研究となんの関係があるのか,と言わずに, ざーっとで良いから目を通して欲しい. 「伝わる論文」を書くためにはこのようなことに気を使うことも重要である.言語による文字"ABC..." を英文アルファベットというのは間違いであり,ここでは欧文アルファベット (おそらく正しくはRoman Alphabet) と表現する. もちろん,英語のみならずインド・ヨーロッバ言語族を中心として多くの言語で使用されているためである. 欧文文字と日本語文字 (新字体の漢字,ひらかな,カタカナ) 以外の文字を学術論文の本文で使用してはいけない.字種全く違う字であって意味が異なる字の差による分類を字種という. 文字通り似て非なるものを含む.
用字「日食」は文部科学省の愚策によるもので,[食/蝕] は異字体ではない. 太陽が食われるのではなく,蝕 (むしば) まれるんだよ!! (Coffee Break: 文部科学省・国語審議会の愚策) ([峰/峯],[崎/嵜] は異字種だろうか異字体だろうか??多分異字体だと思うけど誰か詳しい方教えてください) 字体漢字固有の問題. 意味的に同じで一般に置き換え可能であるが画・画数が異なる差による分類を字体という. 人名などでもしばしば置き換え可能であるが,本人が字体に拘ることは別問題. 同じ字種で異なる字体を異字体という. 異字体の多くは歴史的過程での省略化の結果である.
字種と字体を混同するな!上の表をみていて「おや?」と思った人も多いだろう。 たとえば、「斉/斎,齊/齋」「一/弌,壱/壹」である。斉/斎/齊/齋、一/弌/壱/壹、は、全て異字体でも全て異字種でもない。 [斉/斎][一/壱]は異字種、[齊/齋][弌/壹]は異字種、[斉/齊][一/弌]は同字種異字体、[斎/齋][壱/壹]は同字種異字体である。 何を言っているのか分かりにくいね。 分かりやす例を出そう。 「齊藤」さんを「斉藤」と書いても笑って許してくれる(ことが多い)が、 「斎藤」と書くと字が違う!、と怒られるのである。 「しめすへん: 示」(c.f. 神福祀祠祓祭祟宗) が神事を表すことはご存知だろうが、 そこからも意味的に違うと理解できよう。 参考: 斉, 齊: 意義: 整然と並んだ、そろった。 用例: 一斉、斉唱 音読み: ザイ、シ、セイ、サイ 訓読み: (なし) 斎, 齋: 意義: 神事において、物事をそろえること。 用例: 書斎、斎場 音読み: セ、サイ 訓読み: とき、つつし-む、ものいみ、い-む、さえ、ひとし、いつき [巳/已/己]は意味が全く異なる漢字であり、もちろん置き換えはできない (小学校レベル)。 [一/弌/壱/壹]は大元は同じ意味で本来は同字種異字体であったが、現代国語はもちろん相当以前より区別されている(古字/大字という区別らしい)。 「壱岐」を異字体である「壹岐」と書くことは許容されても、異字種である「一岐」「弌岐」と書くことは許されない。 書体同じ字種・字体であっても存在する幾何形状的デザインの差による分類を書体という. DTPの世界では,明朝体や Times 系のようにヒゲがある書体を serif, ゴシックのように線幅が一定でヒゲがない書体を sans-serif という. (本来は serif/sans-serif は欧文フォントでの用語)
書風・書流同じ書体の中の微妙なデザインの差による分類を書風あるいは書流という. フォントという言葉はこの書風・書流の概念にほぼ対応する. 正確に言えば,ひらぎの明朝と平成明朝は同じ書体で違う書流である. (htmlで表示できるかな...無理だろうなぁ...)
ここの表示はブラウザ・OSにより相当異なる. OSにインストールされているフォント,ブラウザのデフォルトフォント設定・解釈の相違より,異なるフォントが表示されることがある. [MS P明朝]はいくらプロポーショナルだからといって何でこんなに詰まっているの? [MS P明朝]で書かれた研究会論文や全国大会論文をよく見かけるけど,読んでいて本当にツ・カ・レ・ル... フォントフェース元々は書風・書流の差として分類されようが,欧文アルファベット数字記号を起源とするものの日本語文字においても準用される. ある書体書流の基本のフォントフェースをローマン体 (Roman type; 立体/正体) という. ローマン体に対して全体の傾向として右側にやや文字を倒し (スタイルを変え) つつ, デザインにも手を加えたフォントフェースをイタリック体 (Italic type) という. ローマン体に対して全体の線幅 (多くは横方向の幅) を太くし (ウエイトを変え) つつ, デザインにも手を加えたフォントフェースをボールド体 (bold type) という. イタリックとボールドの性質を併せ持つイタリックボールド体もある. 本来,ウエイト量は可変である. ローマン体に対して単にアフィン変形により機械的に倒したフォントフェースを スラント体 (slant face) あるいはオブリーク体 (oblique face) という. デザインとしてフォントデータが存在するイタリック体と, 表示時にデマンド的にローマン体から自動生成するスラント体は異なるタイプフェースであるが悲劇なことに日本語で斜体がどちらを意味するかは不定であるし混同される場合が多い. 次の表示例で特に "a, f, i, v, w, x" の形に注目してほしい. また,まともな serif 系フォントとタイプセット環境であれば f とそれに続く f, i, l においてリガチャ (ligature, 合字) を形成する.
角 (全角・半角・倍角)コンピュータによる文字コード表現の日本での固有問題であり,本質は形状でなく背番号であるコードにある. 表現バイト数が 2 の半分である 1 であることと,2バイト系文字 (全角) の横幅に対して1バイト系文字がたまたま基準(全角)の半分で歴史的に表示されたので半角ということによる. このように純粋なフォントの問題ではなく,表現コード体系との複雑な絡みがある. カタカナ,英数字記号においてのみ半角が存在する. 倍角という表現は死語となった(と思う). このように歴史的・論理的・形状的に美しくない概念であり,技術的な問題もある用語である.
(これを文字セットの分類にするのは気が引けるが,便宜上ここで解説.) 等幅性日本語文字は正方形の升目を埋めるように書き幅が一定であるが, 英数字は一文字当たりの横のサイズが異なる. 文字の図形的幅に応じて (proportional) 文字ピッチが変わることをプロポーショナルという. 等幅性の本質は文字形状の差ではなく文字ピッチの差であるものの, 書体の差として実装される. 等幅 (monospace) フォントの代表として "Courier" などがある. 下記の特に "i, l" に注目.
字形同じ字種において,書体,書流,フォントフェースの違いを含めて文字の形状の相違を字形という.
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