日本語文法上の問題 > 文法的な問題・間違い [科学技術論文の書き方]

科学技術論文の書き方
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日本語文法上の問題




文法的な問題・間違い

能動受動・動作の主と対象

どうも日本語は能動態・受動態に関して脆いようである. いや,日本語がではなく日本人が能動・受動に関して脆弱なのかも知れない. ある動詞に注目したとき,動作の主は誰なのか,そして人間の目的語を伴うとき,それは誰なのか,ということをきちんと区別できるか・しているかという問題である. さらには単に能動態と受動態 (be + 過去分詞型) という問題ではなく,動作の主と対象と考えた方が的確かも知れない。

まず英語で二つの動詞の例を見てみよう.

問題: 次の英文を和訳せよ.

  • The dog bit me. / I bit the dog. (まずは小手調べ)
  • I am exciting. / He is exciting.
  • I am excited. / He is excited.
  • I excite you. / He excites me.

正解はあえて書かない. これによっても日本人が能動態と受動態をはっきり区別していないことが伺える.正解した人には失礼! もちろんこの手の能動態・受動態の問題はアメリカ人・イギリス人等のEnglish Navive Speaker はキチンと区別している.

次に日本語である. 日本人が脆弱なのは動詞のみではないので述語として考える.

  • あの歌手は私のファンだ.  (平気で言いますね!)
  • これは私の写真だ.  (所有者が私? 写っているのが私?)
  • メールを送信したのはXさんである.  (AさんはBさんに送信した.ではXはどっち?)
       c.f. Aさんがメールを送信したのはXさんである.
       c.f. Bさんにメールを送信したのはXさんである.

副詞の用法

副詞「最も」の用法 (形容詞修飾用言の用法)

日本語文法では副詞は用言 (形容詞類,動詞類) を修飾する品詞であるとされている. ただし全ての副詞が形容詞,動詞の全てを修飾可能なわけではない. 特に「最も」は,形容詞(類)あるいは形容的語句を修飾する副詞である.

次の用法は正しいか?

  • (?) ロケット A は最も上昇した.
    1. × ロケット A は最も上昇した.(この文の意味は自明ではない)
    2. → ◯ ロケット A は最も高く上昇した.(最高点/極大値が最も高かった)
    3. → ◯ ロケット A は最も早く上昇した.(上昇した時刻が最も早かった)
    4. → ◯ ロケット A は最も速く上昇した.(上昇速度が最も大きかった)
    5. → ◯ ロケット A は最も低く上昇した.(最高点/極大値が最も低かった: これも正しい文である)
    6. → △ ロケット A は最も遅く上昇した.(上昇した時刻が最も遅かった/上昇速度が最も遅かった: これも正しい文ではあるが,「遅い」のが時刻なのか速度なのかが曖昧なので不適)
    7. → ◯ ロケット A は最も優雅に上昇した.(などなど,いくらでも考えられる)

この第1文は,「上昇」が「最も」なのではない. この場合の副詞「最も」は程度を表す形容詞(類)を修飾しなくてはならないが,この文には形容詞が存在しないので文法的に不完全な間違った文である. 従って,第 2~ 文などの用例が考えられる. このことから,もし「最も」が動詞を形容するとしたら, その文の意味は自明ではないことに注意願いたい.

あなたが読者あるいは聞き手で,「ロケット A は最も上昇した.」と言われた/聞いたら,「で,最もどんな風に上昇したんだよ(怒)!」と突っ込むのが正しいレスポンスなのである.

別の例)

  • × 方式 A が最も普及した.
    → ◯ 方式 A が最も広く普及した.
    → ◯ 方式 A が最も狭く普及した.
    → ◯ 方式 A が最も多く普及した.
    → ◯ 方式 A が最も少なく普及した.
    → ◯ 方式 A が最も早く普及した.
    → ◯ 方式 A が最も速く普及した.
    → ◯ 方式 A が最も遅く普及した.
◯の例いずれも可能であり,「最も普及」の意味は自明でないことに注意されたい.

このような副詞の誤用は最近とみに多くなってきた. この手の文法ミスは著名教授でも多いし, あの朝日新聞の記事でさえ,である.嘆かわしい. 「最も」と殆ど同じ用法を持つ副詞としては,「極めて」「特に」「格段に」「一番」「より」などがあり, その単語が存在する文には「形容詞」またはなんらかの形容的意味を持つ名詞, 形容詞句,副詞,副詞句がなければならない.

  1. × この現象が格段に発生した.
    → ◯ この現象が格段に頻繁に発生した.(など...)
  2. × この現象が極めて生じた.
    → ◯ この現象が極めて広範囲に生じた.(など...)
  3. × この方法が特に動作した.
    → ◯ この方法が特に低損失で動作した.(など...)
  4. × この方法がより用いられる.
    → ◯ この方法がより広範に用いられる.(など...)
  5. ◯ この方法は極めて効率的だ. (「効率的」は名詞だが,形容的意味を持つ)
  6. ◯ この方法は極めて非効率だ. (「非効率」は名詞だが,形容的意味を持つ)
別項でも述べているが,日本語文法は中学校・高等学校で習うもの (学校文法,橋本文法) が絶対的ではなく,いくつもの文法が成立している. 広辞苑では形容動詞の存在を否定しており,本文著者も同意見であり,学校文法における形容動詞は,「形容的意味を持つ名詞」+「だろ・だっ・で,に,だ,な,なら(,なれ)」である. ただし,本文では便宜的に形容動詞という品詞名を使用することがある.

係り結び

「ぞ・なむ・や・か/こそ」って覚えているだろうか. 中学で習った筈の日本語古文の「係り助詞」であり,それによって用言の活用形が (連体形/已然形に) 支配される,というアレである. 現代日本語でも,助詞ではないが係り結び的な表現がいくつかある. 次の副詞はその典型であり,その副詞が係る述語が否定形であるべきものであるが,守られているだろうか.

否定強調の副詞の用法

副詞否定形
肯定形
あまり◯ 最近あまり研究していない
× 最近あまり研究した
全く◯ 伝送遅延は全くなかった
× 伝送遅延は全くあった
全然◯ 全然明らかでない
× 全然明らかだ
ただし,ここで述べた否定強調の副詞は学術論文では基本的に使用する必然性はないはずである. なお係り結びには例外的なものもあるが, 下記のように否定形の述語が省略されていると考えると納得できる. しかし学術論文ではこのような省略形は使用してはいけない.
  • △ 全くその通りだ.
    全く(例外が無いほど)その通りだ.
(to be written)

活用の間違い

今日,たまたま某文章を読んでいて,すごく気になった表現...

  • × すごい気になる.
上記文章を形式的に品詞分解すると,

   すごい + 気 + に + なる
   形容詞 + 名詞 + 助詞 + 動詞

となる. 「すごい(凄い)」は,「すご」を語幹とする形容詞の「連体形」あるいは「仮定形」である. この場合は連体形であり,体言「気」を修飾することとなる. もちろん,用言「なる」を就職したいのであれば,その連用形である「すごく」を 使用しなくてはならない. もうお分かりであろう. 恐らくは「すごく気になる」と言いたいのであろう. 「気」の程度がすごい,のではなく,「気になる」の程度がすごいのである.

ただし,「凄い気」という気功の気があってそれが凄くて,それになる(become)のならば文法的に正しい.

品詞用法の間違い

語幹の形容詞・形容動詞化

最近気になる言葉がある. 文法的には間違っているとは断定できないのだが,非常に大きな違和感がある.
  • ◯ 非常に (副詞)
    → ×? 非常な (形容動詞?)
    「非常」って形容動詞として使用していいのだろうか??気持ちは判らんでもないが.

副助詞「は」の用法

「てにをは」とか「はがのをに」とかいわれるように,助詞の存在は日本語の特徴のひとつである. 助詞の存在により語順に自由度が生まれ,また行間が生まれる. しかし,別項でも書いているように学術論文に行間は不要であり,あってはならない.

さて,勘違いしている方も多いのだが「は」は副助詞あるいは係助詞に分類される. そう,「格助詞ではない」のである. このことからか,現代口語では副助詞「は」は相当の混乱を来している.

あいまいな文

  1. 「俺の名前太郎だ.」
  2. 「俺コーヒーだな.君?」
  3. 「このケーキ俺が食べる.そっちの君ね.」
  4. 「日本食料自給率が低く輸入に頼っている.」

(1)の「は」は「俺の名前」が主格であることを表しており,格助詞的な用法だが格助詞ではない. それに対して(2)の「は」は主格を表しているのではなく,ドメイン(話題の範囲)を表しているのである.(3), (4) については考えてみよう. このように副助詞「」は様々な用法があり,論文執筆時には気をつけないと読者に混乱・誤解を与えることがある. 上の (4) はどうだろうか. すごく読みにくいと感じなかっただろうか.

このような副助詞「は」を含めた助詞用法の混乱は学術論文でも非常に多く, 論文趣旨を損なっているのである.

  • × 日本食料自給率が低く輸入に頼っている.
  • → ○ 日本では食料自給率が低く,輸入に頼っている.
どうだろう. 読みやすく感じないだろうか?

(to be written)

主・述の対応

文章は,主語と述語という重要な要素を持っている.この対応,すなわち 主・述の対応は非常に重要であり,これが間違っている文は,(音として)聞いている 分にはあまり気にならなくても,文字として読むと極めて見苦しい. その見分け方は,主語と述語以外の要素を外すと明確になる.

例) 主題を表す副助詞「」の用法

  • × 本研究,XXX を目的として YYY を行う.
    この文の主語は「本研究」,述語は「行う」である. 「本研究が行う」のか??
  • ◯ 本研究では,XXX を目的として YYY を行う.
    この文には主語がないように見えるが,実は省略された「著者(ら)」である.
(to be written)

意味不明の「~すぎる」

「すぎる」という言葉は,[形容詞の連用形] +「すぎる」と[動詞の連用形] +「すぎる」という形で使用される.
  • ◯ このトマトは赤すぎる.(形容詞連用)
  • ◯ あそこの道を行きすぎてしまった.(動詞連用)
形容詞は問題ないのだが,動詞で最近気になる副詞を伴う使用例がある.
  • (??) ゆっくり歩きすぎたので約束の時間に遅れた.
  • (??) ネジを弱く締めすぎたので緩んでしまった.
いったいどういう意味だろうか? もちろん,正しい言い方は
  • ◯ 歩くのがゆっくりすぎたので約束の時間に遅れた.
  • ◯ ネジを締めるのが弱すぎたので緩んでしまった.
である. 歩きすぎたのではなく,ゆっくりすぎたのであるし, 締めすぎたのではなく,弱すぎたのである.

他の例)

  • × この試薬を急に入れすぎたので反応が過剰になった.
     → ◯ この試薬を入れるのが急すぎたので反応が過剰になった.
  • × ハンドルを速く切りすぎたのでテールがドリフトした.
     → ◯ ハンドルを切るのが速すぎたのでテールがドリフトした.
いろいろな場合を想定してみたのだが,[動詞の連用形] +「すぎる」にはその動詞を修飾する意図では副詞を伴ってはいけないのではないだろうか...

嗚呼,美しい日本語がだんだん崩れて行く...

名詞の連接

名詞を連続して書くことがあるが,「意図する連接」と「意図しない連接」がある.

意図する連接の例)

  • (to be written)
このような連接は意味があり,ほとんどの場合問題は生じない

意図しない連接の例)

  • × ほとんどの場合問題は生じない.
      (「ほとんどの場合」を副詞として使用する意図がある筈だが,「場合問題」という名詞と取られても文句は言えない.)
      → ◯ ほとんどの場合では問題は生じない.
  • × 通称ボスの頭痛薬と呼ばれている...
      (「通称」を副詞として使用する意図がある筈だが,「通称ボス」という名詞と取られても文句は言えない.)
      → ◯ 通称,ボスの頭痛薬と呼ばれている...
      → × ボスの頭痛薬と通称,呼ばれている...(なぜ×か分かるかな?)
  • × 最近社会の至る所で...
      (「最近」を副詞として使用する意図がある筈だが,「最近社会」という名詞と取られても文句は言えない.)
これらはついつい書いてしまう例であるが,読み手の立場では読みにくく,読んだ後「あれ?」と引っ掛かる文章となる. このような問題は連接される名詞が漢字の場合に顕著であり,熟語のように知覚 (読解ではなく知覚) されるためである.

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